「食」の問題の解決に向けて、みんなでアクションする1ヵ月。
「世界食料デー」月間2023 10/1-31

「世界食料デー」月間2022 プレイベント 第1回: フライドポテト不足から見える食料危機

vol.56イベントレポート

主催:「世界食料デー」月間2022
日時:2022年8月4日(木)19:30~21:00
場所:Zoomミーティングルーム

10月の「世界食料デー」月間に向けたプレイベント第1弾として、8月4日(木)の夜19時30分~21時にオンラインイベント「フライドポテト不足から見える食料危機」を開催。アフリカのイモ類などを研究されている東京農業大学教授の志和地弘信さんにご登壇いただき、約80名の方に参加いただきました。

「フライドポテト専用」のジャガイモ

今年(2022年)はじめのフライドポテト不足はなぜ起きたのか? 一番の原因はコロナ禍による物流の混乱です。さらに2020年に北米で天候不順になり、熱波と豪雨に見舞われて、トウモロコシやジャガイモの産地が大きな被害を受けました。それによってジャガイモの生産がガクッと下がったことから、まず足りなくなってきました。

もう一つ紹介したいのが、ハンバーガーショップで売られているフライドポテトは北米で作られたラシット・バーバンクという品種を使っているということです。この品種は非常に大きくて、カットすると細長20〜30cmの長いスライスができます。これがファストフード店の規格品とされ、フランチャイズ店に全世界に流通させています。何がなんでもこの規格に従おうとした結果、フライドポテト不足になってしまったのです。

この品種はアメリカに古くからある品種で、とても大きく、芽の部分もあまりでこぼこしていません。皮をむいたときにも歩留まりのいいフレンチフライができます。過去に、ラシット・バーバンクという品種を北海道で栽培した記録もありますが、日本で作ると収穫量が減るので、日本では作られていません。

ジャガイモはどれでもフライドポテトやポテトチップスに使えるかというと、違います。還元糖という糖をジャガイモは多く含んでおり、これがジャガイモの甘みやホクホクした食感になりますが、この糖を多く含む品種は、油で揚げると焦げてしまいます。ジャガイモには、いろいろな用途に合わせた専用品種があるということを覚えておいてもらいたいと思います。

日本で生産されるジャガイモは、1970年が生産量のピークで、それからずっと作付面積も生産量も減っています。ジャガイモの消費が少しずつ減ってきているのです。日本でもさまざまな品種を生産しており、片栗粉などをつくるでんぷん用、肉じゃがなどに使う青果、そして加工食品用などがあります。一方、輸入のポテトは、植物検疫の関係で生では輸入できず冷凍や加工したもののみになりますが、増えています。ファストフード店やファミリーレストランで使う需要が増えていると言えます。では、日本では作られていないのか、というとやはり、北海道で多く生産されています。フライドポテト用としては、ホッカイコガネという細長い品種が作られていますが、あまり多くありません。また、ポテトチップスは輪切りにするので凸凹があると困るため、芽が浅く、形のよいトヨシロが選ばれる。ほかにも、でんぷん用のコナフブキやアーリースターチ、コロッケやポテトサラダに使われるキタアカリなどがあります。

多くのハンバーガー店では北米や欧州から、専用品種を契約して輸入しています。その結果、産地の天候や物流の混乱が供給を直撃することになりました。特定の品種を、地域を限定して大面積で栽培するのは、リスクを大きくしているということになります。

一部のハンバーガーショップでは、フライドポテトの欠品が出ませんでした。これは北海道の生産農家と契約して国産のジャガイモを使っていたからです。ただホッカイコガネの生産量はジャガイモ全体の2%ぐらいしかありません。ファストフード店の「安く大量に提供する」という経済的な事情があって、使われにくいのです。国産のものはどうしても大面積で生産することが難しく、生産コストが割高になってしまうからです。

ただ、今回のように物流が混乱して船の荷の価格が上昇する、戦争によるエネルギー不安で石油の価格が上がるとなると、これは外国から大量に輸入してきてもコスト高になってくる。この部分こそ、私たちが考えなくてはいけないことだと思います。

人類はどのように生きながらえてきたのか

世界に広がっている作物は長い年月をかけて、原産地を離れ、世界中に広がりました。例えば小麦は地中海沿岸あたりで生まれましたし、先ほどのジャガイモも中南米の高地で生まれたものです。サバンナ農耕文化はアフリカで生まれました。イモに絞って大航海時代の前の分布をお見せします(図1)。現在、イモの生産は世界中に広がっています。人類にとって飢えることは恐怖であり、そのリスクを避けるために、作物の多様性を拡大して来たのが人類の食の歴史です。

1960年代になると、人口爆発が危惧され、食料危機が叫ばれるようになります。ここで、1960年代と2014年の単位面積あたりの収量の比較をお見せします(表1) 。アフリカと熱帯アジアを比べると熱帯アジアの方が大きく増えています。このころ起きたのが「緑の革命」です。トウモロコシや小麦、稲を中心として品種を改良し、化学肥料や農薬、灌漑施設を導入して飛躍的に生産が増加しました。これによってアジアは飢えることなく21世紀を迎えられたと言われています。 一方、表を見るとアフリカはほぼすべての種類で少しずつ増えていますが、熱帯アジアは大きく増えているものと減っているものがあります。これはもともと根菜農耕文化だった東南アジアが、近代農業で栽培される小麦や稲などの文化に変わってしまったことを意味しています。

緑の革命によって食料を増産することはできました。しかし、このような近代品種は品種改良によって限られた品種を作り出していますので、先ほどのジャガイモと同様に経済性の高い品種を大面積で栽培することになります。よって、今度は天候の不順や経済的な困難に陥ったときのリスクが大きくなってしまいました。一方、アフリカではこの緑の革命が起きませんでした。1960年代はアフリカの国々は独立運動中であり、農業に対する投資ができなかったためです。その代わりイモ類、穀類、バナナなど、主食となる品種を増やして人口増に対応しました。

アフリカで植民地化と同時に導入されたのが、キャッサバです。このイモは非常に特異的で、掘り上げてしまうと、どんどん劣化していきます。そのため、すりおろしたりして乾燥させて粉を作り、その粉を調理して食べます。パスタをつくったりしている国もあります。キャッサバは非常に乾燥に強く、干ばつでトウモロコシなどが被害を受けても、ある程度収量が見込めます。また、エチオピア、ソマリアなど東アフリカの中の乾燥地帯ではテフと言う在来作物があります。ロール状になっているものがテフを調理したインジェラです(図2)。これと野菜の煮込みなどを一緒に食べます。他にも西アフリカではフォニオと呼ばれる粒の小さい雑穀があります。厳しい乾燥した環境でも育ちます。ちなみにこれらは品種改良をほとんどしていません。昔から在来のままです。

さらにアフリカ特有の野菜もあります。ずんぐりしたオクラはよく食べますし、食用ハイビスカスの葉っぱやつぼみは食用として利用しています。主食もまだ他にもあります。料理バナナやキャッサバは、お餅のようについて食べることもあります。これをフフといいます。西アフリカでは様々なイモをミックスして食べる食文化があり、例えば、ヤムイモやタロイモもフフなどにして、シチューと一緒に食べます。東アフリカにはトウモロコシを粉にして練ったウガリやシマという料理があります。このようにアフリカでは主食のバリエーションがたくさんあります。厳しい気候・環境の中でたくさんの食べ物の選択肢を持つことが、尊ばれてきたからだと思います。

今の私たちにできること

緑の革命の頃と現在の食料生産の状況は違います。今の品種改良は、病気に強いもの、乾燥に強いもの、夏の高温でも受粉できるもの、機能性を重視したものなどに移ってきています。去年私たち農学界で、話題になったのが、化学肥料を非常に少なくしても収量が得られる小麦品種の開発に成功したということでした。また昔と違うのは、収穫、貯蔵、輸送の技術の発達がめざましく、生産から消費者に届くまでのロスが非常に少なくなっていることです。さらに、食品の加工技術が進化しています。今はフードテックと言い、豆などを使って疑似的な肉を作り出そうとしています。食品加工も、昔は乾燥させるだけでしたが、今ではそれを加工して、違ったものに生まれ変わらせるという技術が発達してきています。

基本的に作物や生産物は、遠くから運んでくればくるほどロスが大きくなるし、自分たちが持っている食文化と違うものが入ってきます。食文化とは自分の地域に近いものを使って加工し、調理して作られたものです。その身近にあるものは、今までいろんなリスクを避けて現在まで残ってきているものですので、それを守ること、そのために食の多様性を維持するということが重要です。例えば、日本の里芋は稲作以前からあります。煮っころがしにしたり、九州などではおでんに入れたり、カレーに入れたり、唐揚げにして食べるのもおいしいです。サツマイモは歴史こそ浅いですけれども、今はサツマイモがブームになるほどいろんな食べ方があります。また山の芋の古い文化もあります。山の芋から作った麦とろは夏バテに効きます。山の芋を使ったお菓子や、おそばのつなぎにするといった活用法もあります。こうした食の文化を守ることによって、食べ物の欠品のようなリスクを減らすことが私たちにできることではないかと思います。

アフリカでも、ガーナやナイジェリアのファストフード店に行くと、ヨーロッパから輸入されたフライドポテトが出てくるんです。いやいやそうじゃないでしょう、大量にヤムイモが生産できるのですから。以前、ガーナ政府と共同で国産のフライドポテトを作ってみました。しかしヨーロッパから運ばれてくる冷凍ポテトの価格が安くて、なかなか売るのは難しいという現状があります。

ただローカルマーケットに行きますと、プランテーン(料理バナナ)のチップが売っています。写真はキャッサバのチップの製品になっているスナック菓子です(図3)。遠いところからジャガイモを運んできてスナックにするのではなく、このように熱帯地域にあるものや、それぞれの地域の特有の農産物を加工して上手に消費する。これが先ほど言った緑の革命の頃と現在の違いです。ポストハーベスト(収穫後)の技術が発達してきて、食品加工の技術も発達してきている。その地域にあるものを道端で揚げて売っているだけではすぐ酸化しておいしくなくなってしまいますが、技術を使って酸化防止の袋に入れて売られるようになっていけば、世界中の農産物を無駄なく食べられる。そういうことによって1つのものを大量に作り、世界中に持っていくというリスクを減らせます。

西アフリカではヤムイモをたくさん作っています。最近良いなと思うのは、インスタント化していることです。これも発達した食品加工技術のおかげです。貯蔵が難しいものをインスタント化することによって、ロスを減らすことができます。ただナイジェリの人もガーナの人も味はまだ生のイモに及ばないと言っていますけれども、フリーズドライなどの技術が導入されることによって改善されていくんじゃないかと思います。 (図4、図5)

Q&A

  • 食の文化を守るためにどのような人が重要な役割を担うと考えていますか?
  • 単純ではなく、色々な人がいろいろな方面から取り組みをしています。東京でも江戸野菜の復活に取り組んでいる人もいますし、サトイモやカボチャを復活させようとしている生産者の方々もいます。また、地域特有の野菜を使って町おこしの商品を作ろうとか、東京では柳久保小麦など地元の品種を使った商品を作ろう、などの取り組みもあります。子どもたちに郷土料理を知ってもらい、地域の食資源を使うようにしようという取り組みもあり、また農学の研究者はそうしたものに栄養価を高められないか、などの品種改良に取り組んでもいます。総力戦で地域の食料危機の解を見出すことが必要かと思います。

  • 国内のジャガイモは北海道産が多い、ということは今後温暖化が進行していくと日本ではジャガイモがとれなくなっていくのですか?
  • もともと日が短いところと、温度が高いところではジャガイモの生産はできなかったのですが、これが品種改良によって、温かい所など色んな所で生産できるようになってきています。ですから北海道の温暖化が進んでいくことによってジャガイモがとれなくなることは、すぐには起こらないと思います。

  • アメリカのファストフード店が同じ規格のものを世界中に輸送するという方法をとったとありましたが、アメリカで生産した作物をグローバルに販売しようという国レベルの政策との関係などもあったのでしょうか?
  • 政策の背景についてまではわかりませんが、最初にチェーン店ができたのはアメリカでしたから、みんなが思い描く「ハンバーガー店のポテト」に対するイメージができ、それが規格として使われていったということもあるのではないでしょうか。

  • 食品を加工するために、添加物などや保存剤などの環境への影響や気を付けることはありますか?
  • 高度経済成長期は防腐剤や人工甘味料、防カビ剤などの問題がありましたが、安全性を審査する基準がとても厳しくなっています。ポテトチップスもパッケージの技術が発達して防腐剤などを使わなくてもよくなったり、適性な技術を使っていく方向に進んでいると思います。

  • イモ類のどのような部分がロスになりますか?
  • キャッサバなどは皮も乾燥させれば家畜の飼料にできます。ヤムイモもそうです。捨てる部分を発酵させて家畜の餌にすると聞いています。捨てるところは少ないです。

  • フードテックは、アフリカがこれから投資を呼び込もうとしている分野だと思います。この動きをどのように見ていますか?
  • アフリカの場合は、例えば大量に取れるのはキャッサバだったり、サツマイモだったりする。それらをパンの材料に使う。小麦100%のパンでなくてもいいわけです。それからインスタントラーメンだと、やっぱり輸入小麦で作っているので、輸入小麦ではなくて、アフリカのソルガムという雑穀類とかを混ぜて麺を作るという試みがされているようです。また、これは日本の技術ですが、東アフリカでは日本の干し芋を作って、女性グループの現金収入源にする取り組みがあります。お菓子作りなど、ローカルな技術がアフリカの状況にフィットするんじゃないかという提案も聞いたことがあります。

  • 日本とアフリカの食文化の発展のために日本ができることはありますか?
  • 西アフリカでもインスタント食品などが拡大しています。今後そうしたものがアフリカに出ていくのはこれからかと思います。麺の文化をつくる過程で、アフリカのその地域の食材を使う方法を考える、などは日本の企業は得意ではないかなと思います。また、例えば西アフリカには、発酵みそに似たものや干しエビを使った料理など「うま味」の文化がもともとあります。そうしたもののインスタント化も日本の企業は得意かもしれません。

  • アフリカの人々にとって化学肥料や多くの投資を必要とせず、気候変動にも対応しながら、生産をうまく行うことのできる事例はありますか?
  • グーグル検索で「志和地弘信」と入れると出てくるかと思いますが、ナイジェリアでヤムイモから生育を促すバクテリアを分離し、そのバクテリアと有機質の肥料だけで作物生産ができないかという研究を行っています。いま実証実験の一歩手前まできています。できるだけ化学肥料を使わずに生育を助けられる方法があるのではないかと思い取り組んでいます。

  • 発表の写真の中に出てきたナイジェリアのヤムイモは、とても大きいヤムイモでしたが、化学肥料や農薬は使っていますか?
  • 化学肥料を使っている人はいるかもしれませんが、農薬はほとんど使っていません。キャッサバやヤムイモは害虫がとても少ない作物です。

  • その他のコメントについて
  • 地産地消は生産だけでなく、付随するさまざまな産業も一緒に起こすことができるという側面があると思います。また、豆などの調理が大変というコメントについては、燃料も多く使わなければならず、本当だと思います。それが小麦やコメの消費の増加につながっているかもしれません。一方、イモや雑穀を混ぜているときはビタミンやミネラルなども一緒にとることができたが、手間のかからないパスタなどは、野菜やその他の食品で他の栄養素を多くとらなければいけないという欠点もあると思います。

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