「食」の問題の解決に向けて、みんなでアクションする1ヵ月。
「世界食料デー」月間2024 10/1-31

WORLD FOOD NIGHT 2022 with 横浜 フードロス ~「もったいない」の先を考えよう~

vol.58イベントレポート

共催「世界食料デー」月間2022、横浜市資源循環局
日時:2022年10月7日(金)19:00〜20:30
場所:Zoomウェビナー

10月7日(金)19:00〜20:30 オンラインイベント「WORLD FOOD NIGHT 2022 with 横浜」を「世界食料デー」月間 2022と横浜市資源循環局で共催しました。当日は99名の方にご参加いただきました。
フードロスの「もったいない」では済まない側面を深掘りするイベントを、若者から専門家へのインタビューという形式で開催。食料問題に関心を持つ高校生と大学生からの課題提起から始まり、その後、世界の食料問題、環境問題、日本のフードシステムの専門家に若者から質問を投げかける形で進み、最後に参加者からの質問に回答いただきました。

※本文中、「食料ロス・廃棄」「フードロス」「食品ロス」という表現が使われています。似通った意味ですが、それぞれの定義は以下の通りです。
食料ロス・食料廃棄:ロスは生産から小売の前まで、廃棄は小売から消費の段階で失われる食料のこと。国連FAOが使う用語。
フードロス:日本で使われる食料ロスと食料廃棄の総称。フードロス・チャレンジ・プロジェクトが広めた用語。
食品ロス:本来食べられるのに捨てられてしまう食品。生産の段階で失われる生産調整の量などは含まない。日本の農林水産省が使う用語。

オープニング
歪みのある農業・食料システムの全体を見て
国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所 日比絵里子所長のお話

SDGsの目標2は2030年までに飢餓をゼロにすることです。しかし、今世界では飢餓をゼロにするどころか、逆行しています。昨年の世界の飢餓人口は、最大8億人を超え、10人に1人になりました。コロナ禍以前の2019年から2年連続で急増しています。ウクライナ危機から食料への影響が出る今年の飢餓人口はさらに悪化すると懸念しています。

飢餓だけでなく、栄養の問題も深刻です。現在、世界の2、3人に1人が経済的な理由から栄養バランスの取れた食事を食べられていません。体に良い食べ物は、カロリーだけを満たす食べ物よりも値段が高く、食べられるかどうかは、消費者の所得に影響されます。

飢餓を引き起こしている3大要因としては、経済ショック・経済停滞、気候変動による極端な気象現象、そして紛争があります。この2年間、世界は新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした深刻な経済的影響に苦しみました。そこから回復していない段階で、今年の2月にウクライナ危機が勃発。ウクライナとロシアが世界の主要な食料生産国であるため、世界の食料価格が高騰しました。この2ヵ国に供給を依存している低所得国は特に困難な状況に陥っています。またこの間に気候変動が進行しており、多くの国で干ばつや洪水などの気象災害が発生し、食料の生産や供給に甚大な被害を与えています。

その一方で、世界では生産した食料の約3分の1がロスまたは廃棄されています。飢餓がある一方で食料ロス・廃棄があるのです。私たちが生きて、依存しているのは、非常に歪みのある農業・食料システムだといえます。この場合、システムというのは、生産、加工、流通、消費、廃棄という食料のサプライチェーン全体の流れのことです。一部だけを見ず、全体を見て、どこに歪みがあるのか、どこで何ができるのかを考えつつ課題を解決していかなければ、今後、飢餓がゼロになることはありません。

学生からの課題提起

インタビュアーを務める高校生と大学生から、自分たちが取り組んできたことの紹介と、課題提起をしてもらいました。

なぜ需要以上に供給され、廃棄が出てしまうのか?
高知商業高校 山岡さん、山口さんの発表

「世界食料デー」月間の「ユース記者プロジェクト」に参加し、フードバンク高知への取材と子ども食堂のお手伝いを経験しました。

フードバンク高知の取材を通して、賞味期限がまだ切れていない商品でも店頭に並ばないことがあること、つまり「3分の1ルール」を知りました。最も印象に残っていることは、バレンタインなど、イベント後に残るチョコレートやクッキーなどのお菓子類が多いことです。これらは値引きをしても、売り切れるとは限りません。そうすると、フードバンクに寄付したり、廃棄することになります。世界で飢餓に苦しむ人は8億人以上いると言われている中で、この状況はどうなのでしょうか?

この現状を知り、私たちが疑問に思ったことは、なぜ需要以上に供給されてしまうのか、ということです。メーカーや小売店が普段より売れると見込み、売り切れを防ぐために大量に供給した結果、売れ残ってしまい、廃棄せざるを得なくなる。廃棄が出るのに毎年多く供給してしまうのは、なぜだろうと思いました。一部では受注生産に切り替えたという話も聞きますが、それでも現状は変えられていません。日本では年間520万トンの食料が廃棄されています。また、廃棄される食品のうちの半分近く、247万トンは家庭から出ています。

私たちが提案する解決策は、売れ残った商品の活用方法を見つけるということです。廃棄処分は環境にも良くないですし、食べられる食品を廃棄することは、限られた資源を無駄にすることになります。この問題は、各家庭から始め、社会全体に広げていくことが大切だと考えます。

農業の現場から見えた食品廃棄のリアル
クラダシチャレンジ 福島さんの発表

「クラダシチャレンジ㏌YOKOHAMA」は、横浜市内の大学に通う学生が、市内生産者の協力を得て野菜の生産・販売・物流を体験し、食品ロスや地産地消に貢献するアクションを考えて実行するプログラムです。今年の2月から9月にかけて開催され、12名の学生で活動してきました。8月には横浜市役所内で、実際に自分たちが収穫した野菜を販売するマルシェも開催しました。

私がクラダシチャレンジで学んだ気づきとしては、農家さんはそれぞれ農業経営の目標やこだわりが大きく異なるということです。私が実際に関わった3人の農家さんの中には、肥料を使わない農家さんもいれば、適切な量の農薬を使って効率よく野菜を生産して、若者などの新規就農者でも手軽に農業を始められることを広めたいと考える農家さんや、野菜を生産するだけではなく、若者が日本の抱える課題に対して問題提起や問題解決できる場をつくりたいと農業を始めた農家さんもいました。無農薬だけでなく、いろんな目標を持った農家さんがいて良いんだと感じました。

食料の生産段階で生じる食品ロスは、消費者の意識改革だけでは解決できないと感じています。なぜなら、私が野菜を収穫する際、規格外の野菜はほとんどありませんでしたし、農家さんによると規格外の野菜よりも生産調整によって廃棄される野菜のほうが圧倒的に多いということでした。生産調整の段階での廃棄を減らすためには、農業従事者の収入を安定させるため、国からの補助金などを増やす必要があるのではないかと感じています。

登壇者の自己紹介

切り離せない自然環境と食料の密接な関係

コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの日比保史です。コンサベーション・インターナショナルはアメリカに本部をおく、環境NGOで、自然を守ることを通して、持続可能な開発を実現することに取り組んでいます。特に途上国と呼ばれる国、地域において資源を守って、その地域の人たちがより良い暮らしをして、将来世代もその地域で幸せを追求できる、そういう社会づくりを目指しています。

なぜ食と自然保護がつながるのかですが、普段私たちが食べている食は、すべて自然と何らかの形で関わって、生み出されているものです。例えば野菜やお米も人が作っていますが、結局は生物として種から芽が出て、それが育って、受粉して実がなって、という生物としてのプロセスがなければ我々の食べ物は何一つ生まれてきません。そういう意味で、生物多様性を守っていく、自然の仕組みを守っていくことは非常に大切だと思っています。

動画「母なる自然 / Mother Nature」にもある通り、世の中には、飢餓で苦しんでいる人がいます。一方で、自然を守ることは我々が自分たちの将来、あるいは自分たちの子ども、孫の世代がちゃんと食べられるために不可欠なことです。今、その自然が非常に危機的状況にある。そして、自然環境と食料は非常に密接に関わっています。

食品ロスをゼロに近づけるビジネスモデルの確立

オイシックス・ラ・大地株式会社の大熊 拓夢です。先ほど福島さんから生産者のお話がありましたが、私たちの企業理念は「これからの食卓、これからの畑」です。より多くの人が、良い食生活を楽しめるようなサービスを提供しつつ、良い食を作る人が報われる仕組みを構築していきたいと考えています。

サステナブル・リテール(持続可能型小売業)と呼んでいるのですが、持続可能な形で小売業を営んでいきたいと考えています。

基本的にはサブスクリプションですので、定期購入される会員様がいます。過去のデータも参照しながら、どれくらいの注文が入りそうかなど、できるだけ食品ロスを減らし、最適な供給ができるように調整しています。私たちの場合、流通上における食品ロスの率が約0.2〜0.3%ですが、一般的な小売業やスーパーの場合は約5%出ていると言われています。当社の場合は更に食品ロス率をゼロに近づけられるよう、テクノロジーや様々な取り組みの中で行なっていきたいと考えています。

学生から登壇者への質問と回答

FAO駐日連絡事務所の日比絵里子さん、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの日比保史さん、オイシックス・ラ・大地株式会社の大熊拓夢さんの御三方それぞれに学生から質問を投げかけ、回答をいただきました。

Q:日本で食料を廃棄しないことは、世界の食料問題解決につながる?
福島さん:
日本における食品ロスの削減が、どのように日本で起こりえる食料危機の防止や、世界で起きている食料危機の改善に繋がるのかイメージできていません。どういうメカニズムで、日本で食品ロスを削減することが、世界に影響するのでしょうか?
FAO日比さん:
まず日本でよく使われる「食品ロス」という用語ですが、FAOでは「食料ロス」と「食料廃棄」に分けています。「ロス」は生産から小売りの手前までの段階で失われるもの、そして「廃棄」はコンビニや家庭、外食産業で失われるものを指します。ちなみに日本で使われる「食品ロス」には、生産の段階で無駄になってしまったもの、あるいは生産調整で捨てられるものは入っていません。そのため、実際の食料ロス・廃棄の量は、現在、日本で出されている食品ロスより多いといわれています。
生産された食料の3分の1がロス・廃棄されるとしていますが、これを計ることは非常に難しいです。国によって異なる基準を使っていて、何をもってロス・廃棄というのか、そして体系的にデータを集めていくということは、実は各国のキャパシティによって差が出ることです。なかなか正確な数値が出てこないという点は、先進国でも発展途上国でも非常に大きな問題です。このような事情から、数値で波及効果を測ることは非常に難しいです。 例えば、日本で余っているもの、捨てられるものを世界で飢えている人にまわせませんか、とよく聞かれますが、実際にはそう簡単にはいきません。そういう風に繋がっていないところが、難しいところなのかなと思います。質問にもあったように、今日、日本で家庭のゴミを減らしたからといって、地球の裏側で飢えている人が明日食べられるようになるわけではありません。
ただし、農業・食料システムは繋がっています。つまり、生産、加工、流通、輸出入、卸売り、小売り、外食産業、一般家庭の消費、そして、この様々な段階で出てくる廃棄やロスを含めて、全体を把握しつつ、どこに無駄があるのかを検証し、改善に向けて取り組まなくてはいけません。その一つとしてロスや廃棄は絶対に無視できないものです。 一方で、FAOとしては、まずは気候変動対策、紛争の防止あるいは平和的解決、そして、経済停滞、経済ショックへの対応を重視しています。
以上のような理由から、日本で目の前にある食品ロスを減らしたからと言って、すぐに世界の食料問題を解決できるわけではありません。しかし、持続可能な農業・食料システムを作るためには、食料のロス・廃棄は減らさなければなりません。その意味で、 必要条件ではありますが、十分条件ではないです。

Q:フードロスの環境への影響は?
山岡さん:
フードロスによる環境への影響を知りたいです。また、モノを燃焼する際に二酸化炭素が発生すると学校の授業で習いましたが、廃棄された食品の場合、どのくらいの二酸化炭素を出しているのですか?
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン(以下、CIジャパン)日比さん:
ロスというのは、無駄になっているということです。つまり本来必要ないものを作り出していることになります。お米、野菜、肉、果物といったものを作るためには広い農地が必要です。いま日本の人口は減っていますが、世界人口はどんどん増えていて、あと20年ほどで100億人を超えると言われています。これからますます食料が必要になってくる中で、ロスが発生するということは、結果的には必要なかったものを作っているわけです。
ただし、都会で食料生産をするのは難しいので、食料を作るために自然を農地に転換している現状があります。このことにより、特に海外では森林や湿地、自然の生態系が失われています。今、年間千数百万haもの森林が失われていて、これは日本の国土の半分の大きさです。その原因の約8割が農地への転換によるものだと言われています。森林が失われると、オランウータンなど絶滅危惧種の住処が奪われるほか、雨水を地中に溜めて川や井戸に水を供給し、雨が降らない時でも水を利用できるようにしてくれる水源涵養(すいげんかんよう)という機能が失われます。また、人間を含めた生き物が必要とする酸素を作ってくれている植物でできた森林を失うということは、同時に、二酸化炭素が大気中に増え、気候変動を促進してしまうということです。
食品廃棄の大部分は焼却処分されます。日本全国で人間の活動によって排出される二酸化炭素のうちゴミを燃やして出る量は全体の3%。そのうちの食品廃棄による排出量は約1割、つまり全体の0.3%に当たります。0.3%と言っても重さに換算すると数百万トンになりますし、日本は世界有数の二酸化炭素排出大国です。焼却で排出される二酸化炭素の量も減らしていかなければならないのですが、むしろ先ほど言ったように森林を破壊することで出る分や、農業の肥料を投入する際の窒素も無視できません。なお、窒素は二酸化炭素よりも温室効果の高い物質です。実は農業だけでも世界全体のCO2排出量の4分の1を占めていて、ロスが出るということは、それだけ無駄なCO2を排出しているということです。加えて日本でいうと、食料の約6割は海外から持ってきているので、輸送で使う船や飛行機からもCO2が排出されます。そのため、地産地消は気候変動対策にもなります。
食べ物が作られてから、食卓にのぼるまでの非常に長い道のりを辿る中で出されるCO2も考慮して、どのような食を選んでいったら良いのかを考える必要があります。例えば、牛肉は非常にCO2排出量が大きいと言われています。森林の農地への転換が、放牧や飼料にする大豆やとうもろこしを作る広大な畑にするために行われていたりします。食べ物によって気候変動への影響の度合いは違ってきます。最近では、動物愛護の観点ではなく環境問題の観点からベジタリアンになる人もいます。毎日安くお肉を食べる食生活がサステナブルなのかは日本でも考えていかなければいけないなと思います。

Q:生産から流通の間でロスは出ているの?解決に向けた動きは?消費者は変化を生める?
山口さん:
私は質問が3つあります。生産から流通の間にフードロスはあるのでしょうか。またそれに対する解決策を政府などは打ち出しているのですか。そして、消費者が購買行動などを変化させることはフードシステムにどのように影響するのかを知りたいです。
大熊さん:
生産から流通の間にもロスは出ています。生産現場でも出ているし、流通現場でも出ています。日本の食品ロスは500万トン超出ており、家庭でのロス、生産から流通の事業系のロスとだいたい半々だと言われています。 解決策はいろいろな観点からあると思います。例えば、政府だけでなく事業者や小売企業も取り組みを始めていますが、日本の場合、納品の商習慣で「3分の1ルール」があります。国際的に比較するとアメリカは2分の1、欧米は3分の2、と日本より短い期限です。現在日本も政府が呼びかけながら事業者も参加して見直しています。それ以外にもロスになってしまうもの、そのおそれのあるのもの、期限が短いものをうまく販売していこうという動きは増えてきています。日本でもアプリなどでロスになってしまうものをお得に買えるサービスがあり、福島さんが所属するクラダシもそうです。
3つ目の質問への回答ですが、消費者が行動を変えた場合、フードシステムは変化すると思います。お客様、消費者が売り切れてほしくないと考えていることを前提に、小売店などは棚を充足させています。もし、お客様の行動が変化して、売り切れていてもそういうものだと思えるようになると、事業者側も変化しやすいのではないかと思います。
もう一方で、食品ロスの半分は家庭から出ています。そういう意味では、半分は家庭でも防げると思うので、買いすぎないとか、食べ切れる量だけ買うことも大事です。当社の場合だとミールキットという、必要な材料とレシピがセットになった商品があるのですが、使い切れるため余りません。生で人参や、大根、キャベツを丸々一個買って、ちょっと余ってしまって、冷蔵庫の奥で干からびてしまって使いきれないことがあるかもしれませんが、そういう心配もありません。自分たちの行動を変えることで家庭のロスも減り、結果的に事業者側が変わることにも繋がるのではないかと思います。

Q:食品ロスの原因は?また、なぜ解決しなければならないのか?
福島さん:
それぞれの専門分野から見た食品ロスの原因と、そもそも食品ロスはなぜ解決しないといけないのか、の核となる部分をお聞きしたいです。
FAO日比さん:
私の場合、発展途上国に長いこと住んでいたので、逆にこの日本のスーパーなどに並ぶバラエティに富んだ商品を見てショックを受けました。私の住んでいたところはどこも賞味期限なんていい加減だし、賞味期限は自己責任でした。表示に関わらず、自分で安全かどうかを判断して食べていました。そんな環境から日本に来て感じたのは、とても発展した商習慣で、夢のような世界だけれど、維持するためにはものすごい無駄が多くあるんだろうなということです。
それと、アメリカだとドギーバックと言って、レストランで食べ残した食事を普通に持って帰ります。そこでお腹を壊したらどうするのかとか、それでホテルやレストランの人も別に気にせず、自己責任で持って帰ります。このように、海外や発展途上国の場合、自己責任の範囲が広いんじゃないかなと感じます。日本の場合は、政府にしっかりと守ってもらっていると感じます。このような点も食料の廃棄に繋がっているのではないかと思います。
CIジャパン日比さん:
なぜ問題が起こっているのかを考えていくと、日本の場合特に供給と需要が非常にずれており、供給過多になってしまっていることが無駄に繋がっているのかなと思います。その原因の一つとして、普通のスーパーマーケットやコンビニは品切れを出すのを非常に嫌がります。買いたいと思って来店した人がいるのに、商品がないというのは、販売の機会を自ら手放してしまうことになります。それを避けるために常に商品があるようにしておこうとすると、無駄なフードロスが出てしまうし、無駄な出費も出てしまいます。しっかりと供給と需要がマッチングできればそういう無駄もなくせる、そうすればフードロスも減らせるし、企業にとっても無駄をなくせる、ということになります。 消費者側も特定の商品が欠品していても、ガッカリするのではなく、別の商品を買えば良い、という意識を持つことも重要かなと思います。その究極が、地産地消や、旬のものを食べるという選択です。年中同じ食材を食べられるのは、ハウス栽培や輸入をしているからです。旬が来たら旬のものをおいしく食べて、旬が過ぎたらその次の季節のものを楽しむということもできるのではないかと思います。自然の力を使って作られた旬のものを食べるということは、生産段階でも無駄が少なくなります。例えばハウスを温めるエネルギーもいらなくなるし、地産地消にすれば運ぶ距離も短くなる。このように、自然環境への負荷も考えつつ、サステナブルな食生活をつくっていければと思います。
大熊さん:
企業的な観点から話すと、未来を考えた時にフードロスの最小化に対応しないと企業として生き残れない、許されないから解決しなければいけないと思っています。それは地球の観点もそうですし、お客様の観点から見てもサステナブルな対応ができていない、フードロスが出続ける企業は許されない、生き残れないと強い危機感を持っています。 フードロスが出る原因は、基本的には仕組みの問題だと考えます。当社の場合はそれをビジネスモデルで解決していきたいと考えています。

参加者からの質問と登壇者からの回答

Q:将来食料不足になることが予想されていますが、そのとき、私たちは何を食べるのでしょうか。昆虫食でしょうか。その他にあれば教えてください。またそれらは栄養面的には大丈夫なのでしょうか。
FAO日比さん:
昆虫食はFAOが推奨している、ひとつのオルタナティブです。たんぱく質が多く、環境に負荷をかけず、生産性も高いので一つの選択肢として出しているものです。私としては、日本でも世界でもひとつしか食べるものが無いなんて状況にはなってほしくないなと思います。そこで重要なのは、食を多様化させていくことです。
同じものをみんなで大量に食べていく、自国で作れないものを遥か遠くの国で大量に作ってもらって、その土地の水資源を使い、土を使い、森林を伐採し、それにカーボンフットプリントをつけながら日本まで持ってくる。この食生活は日本人がお金を出せるから賄えますが、この構造自体も問題を抱えています。他国に食料の供給を依存し、世界的な食料のサプライチェーンや国際的な食料価格に影響されるわけです。ただ今日、他国に依存しないで生きていける国は1ヵ国もありません。なので、どこまで地産地消を目指し、どこまでグローバル経済に依存するのか、 そのバランスをどこに持っていくかが最大の政策課題になります。
今回ウクライナの危機が起こり、我々は世界の食料システムの現状にやっと気づきました。実に多くの国がウクライナやロシアの穀物に依存していたわけですが、理由は価格が安いからです。自由貿易を前提として、効率を極めたサプライチェーンが世界中に構築されてきたわけですが、これはある意味で非常に脆弱な貿易システムです。地産地消、国産と言っても、エネルギーのほとんどは海外から来ています。食料を国産にするだけでは、日本の脆弱な食料システムは改善できないのです。食料システムは非常に複雑です。昆虫食からだいぶ大きくなりましたが、食料を多様化していくことが大切だと思います。

Q:発展途上国で生産から流通の段階でのロスが多い理由はなんでしょうか?
FAO日比さん:
一般的な傾向として、発展途上国ほど食料のサプライチェーンの上流、つまり生産の現場、収穫、加工の段階で失われ、先進国ほど下流にあたる家庭や小売など外食で廃棄されていると言われています。発展途上国の場合はインフラが整備されていないということがあります。例えばコールドチェーン(冷蔵・冷凍しての流通)や、収穫後に適温で保存するための設備が不足していたり、電力不足で設備が機能していなかったりすることで、食料を失っていたりします。また、収穫後の扱い方、ポストハーベストの知識が足りなかったりします。この知識やインフラの強化は効果が高いと思います。 そして、日本だけでなく世界的にも、技術革新が重要になっています。ブロックチェーンや、携帯のアプリで食料を管理するようなサービスや、農場から消費者に直接届くような仕組みなど、ロスを少なくしながら食料を消費者に届けるためのシステムを構築するような技術革新が重要です。

Q:今後の社会を担う子どもたちに日本の食料生産や食品ロスの問題について知り、考えてほしいことは何かありますか?
大熊さん:
知って欲しいことというよりは、どうやって楽しみながら教育をしていくかということが重要かなと思います。やはり子どもも大人もですが、「しなければならない」アクションには少し抵抗感があると思います。むしろ「こうやると楽しい」や「こうやると美味しく食べられる」というような体験をすることが結果的に食品ロスの削減につながるのではないかと思います。
例えば、子どもが産地を訪問して、一緒に生産者と収穫体験をしてみると、こうやって作られているんだ、ということが知れます。生産者の顔や努力を知った方が美味しく食べられたり、楽しかったり、そんなストーリーを提供していくことが重要かなと思います。

クロージング
食への感謝と私たちにできること
横浜市資源循環局3R推進課長の津島さんのお話

377万人が暮らす横浜市では、家庭から出される燃やすゴミの中に含まれる食品ロスの量は、年間約8万6000トン(2021年)と推計されています。これは一人当たり年間約23キロ、約1万8000円分の食品を廃棄していることになります。 今日お話を聞いていて、誰でも明日からできることがあると思いました。まずは、食に感謝することです。食に感謝すればそれを提供する人にも感謝し、それから食を育んでくれた自然にも感謝できる。そういったことを意識することで、食べ残しを減らすとか、作りすぎないとか、残したものも保存して使い切ることにつながるのかなと思います。こうした一人ひとりの小さな取り組みが、積み重なることで食料問題などの地球規模の課題解決にも繋がるのではないでしょうか。

一方、横浜市では事業者との連携も進めています。社会貢献型ショッピングサイトを運営している株式会社クラダシとの連携なども継続していきます。今日インタビュアーを務めた福島さんも参加したクラダシチャレンジの一環として、8月に栽培して収穫した野菜を横浜市役所で販売してもらいました。食品ロスや地産地消について直接市民の方に伝えてもらいながら販売いただく機会でした。

今後も、市民のみなさんや事業者のみなさんに食の問題や食品ロスの削減について考え、暮らしや事業活動の中で実践してもらえるように行政として一生懸命取り組んでいきたいと思います。 本日はご参加いただき、本当にありがとうございました。食を取り巻く社会、環境の変化、あるいは課題を知ることが、行動を変えるきっかけや、ヒントになれば幸いです。

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