vol.69イベントレポート
共催:「世界食料デー」月間2023、横浜市資源循環局
日時:2023年10月6日(金)19:00〜20:30
場所:Zoomウェビナー
10月6日(金)19:00〜20:30 オンラインイベント「WORLD FOOD NIGHT 2023 with 横浜 〜世界とつながるわたしの食卓〜」を、「世界食料デー」月間 2023と横浜市資源循環局で共催しました。当日は小学生から大学生、会社員など幅広い88名の方にご参加いただきました。
今回は、スピーカーとして国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所の日比絵里子さんと、世界の台所探検家の岡根谷実里さん、そしてモデレーターに株式会社honshokuの平井巧さんにご登壇いただき、「みんなで食べる幸せ」を世界や日本の人々と分かち合うためのヒントを、世界規模の広い視点や、身近な食卓や台所からの視点を行き来しながら探りました。
オープニング横浜市資源循環局3R推進課長の津島さん
横浜市では今年度、SDGs(持続可能な開発目標)の達成や脱炭素社会の実現など、今の世の中の課題にしっかりと対応していくために、現行のごみ処理計画であるヨコハマ3R夢(スリム)プランに変わる新たなごみ処理計画の策定を進めています。新たなプランでは、食品ロス削減の推進を重要施策に掲げる予定です。家庭から出る食品ロスの削減を、日々の生活の場面で一人ひとりが自分ごととして意識し、行動につながるようなプランにしていきたいと考えています。そのためにパブリックコメントも実施しますので、ぜひご意見を寄せてください。 最後に、本イベントが、参加者の皆様の間で食を大切にする価値観が醸成され、あらゆる場面における食品ロス削減や食料問題の解決に向けた具体的な取り組みの実践とその定着につながるきっかけになればと思います。
テーマ1:たくさん輸入して、たくさん捨てる日本、このままで大丈夫?
平井:食に関わる現状に「正解はない」です。また、グローバルな話を自分の身近な「半径5メートル」に引き付けて考えてみてください。 まず、これから食品ロス、飢餓、食料自給率というようなキーワードが出てきますので、少し基本情報を共有したいと思います。食品ロスは日本で年間522万トン出ています。この食品ロスは気候変動、経済的損失、そして間接的には貧困・飢餓にもつながっています。また、今世界には飢餓に直面している人が約7億人います。 さらに、日本の食料自給率は38%(カロリーベース)と、世界的に低いです。日本の場合、米や野菜は自給している一方で、小麦や大豆は輸入に頼っています。また、肉・乳製品は輸入品より国産の方が高価だと、消費者は安い輸入品を選びがちになります。日本人が好む食べものは、国内で生産しにくいものが多く、需要と供給のアンバランスな構造があります。そのほか、私たちが安心して命をつなぐための食べ物を得ることを保障する「食料安全保障」の視点や、生産者の高齢化など農業生産力の低下なども関わってきます。
平井:たくさん輸入することにはどのような問題点がありますか? 日比:まず、自給率は良い悪いで議論されがちですが、どこにバランスをとるか、という問題だと思います。そもそも輸出入をしていない国はありません。以前は、食料といえば地元で生産されるものだけだったので、少ない種類しかありませんでした。それが輸出入によって色々な物を食べられるようになりました。今は輸出入なしでは成り立たないですし、相互依存しているので、どこでバランスを取るかが非常に重要だと思います。 岡根谷:たくさん輸入することの問題点としては、世界で戦争など、何かがあった時に、高騰したり、入りづらくなるなど、煽りを受ける点だと思います。トンガに来て気づいたことは、食料を輸入に頼って、かつ国にお金がない場合、不健康な物を輸入しなければいけないということです。今この国では、肥満が問題になっていますが、そのきっかけとなったのが、1970年代にニュージーランドからコーンビーフや羊肉の脂身の多い部位が多く輸入されるようになったことがあるようです。また、近隣で獲れる魚は値段が高く、加工食品は安いという現状があります。今、日本は買えているから良いけれど、状況が変わったときに、どうなるのだろう、健康すらも損なってしまうかもしれないと考えています。 平井:他国では国産のものをなるべく使おうという人は多いですか? 岡根谷:ひとくくりにはしづらいですが、特に単一民族や均質的な国だと、一旦外に憧れるというフェーズがあるように思います。例えば、太平洋の島々には、地元のものよりも西洋のものが格好いいという憧れがあったと言われており、これは肥満の原因にもなりました。 一方で欧米の先進国は今国産を意識しています。特に印象的なのがオーストラリアとフィンランドです。オーストラリアの場合は、商品の材料の何パーセントがオーストラリア産なのかが表示されています。それは国産95%であっても27%でも表示しなければいけない。国産のものを買っているとか、どれくらい輸入に頼っているのかということを意識する仕組みがあるように思います。また、フィンランドはロシアと隣り合っているため、常に安全保障を意識しています。それもあってか、食料だけでなく、家具や服なども国産のものを選ぶ傾向を強く感じました。 平井:日本はこのままで大丈夫でしょうか? 日比:先ほど指摘しきれなかったので、たくさん輸入しすぎることの問題点として3つ指摘したいと思います。 ひとつは安全保障の面です。これは日本だけでなく世界中で議論されていることですが、リスクは分散させる必要があります。なので、あまりに多くの食料を輸入に頼るのは安全保障の面で危険です。 また、世界の限られた水資源のうち、特に農業や工業、飲み水に使える水のうち4分の3が農業に使われています。今、日本はお金があるので、食料を輸入できますし、それによって現地の生計や経済を助けているとも見えます。一方で、現地の希少な資源を使い尽くすことにつながるかもしれない。ましてや、日本ならまだ生産できる環境があるにも関わらずあえて輸入するのはどうなのかという資源配分や資源の利用という視点もあります。 最後に、生物多様性の点です。今、私たちは非常に限定された種類の食べ物に依存しています。私の祖父母の時代には、その土地にしかない作物を食べていたので、地域ごとに多様性がありました。それに対して、今は単一品種を大量に生産し、単価を落として世界中に輸出する構造になっています。輸入品が国産品より安い反面で、各地域にあった在来種が消え、生物多様性が失われていっています。 平井:お話を聞きながら、正解はないなと思いました。急に明日からひっくり返るような改善方法もないですし、少しずつ答えを醸成していく必要があると思いました。 その時に、一人ひとりが何をできるのか、やっていくのか、を考えることが大事になっていくと思います。参加されている方に、自分がやっている「小さな行動」を事前にお答えいただきました。中には大きな行動を起こしている方もいます。参加されているみなさんのお声をいろいろ聞きながら、これまでの話をさらに展開していきたいと思います。
テーマ2:小さな行動が世界を変える力になる
平井:「規格外野菜を購入している」という方がいました。日本だと食品ロスと合わせてキーワードになっていますが、海外だと規格外野菜ってどうなのでしょうか? 岡根谷:そもそも規格が存在しない地域もあります。というのも、規格がなぜ必要なのかというと、流通の効率が良いからとか、箱に入れて運ぶのに色んな形のものがあると不便だからというのが理由だと思います。そうではない、小さい範囲内で流通させていたり、具体的な流れはわかりませんが、袋にドサっとパプリカを入れて市場に持っていくというような形式で売っている国も結構多いです。もしくは、さまざまなトマトがドサっと並んでいて、買い手が適した熟れ具合のものを選んで、傷ついたトマトは交渉して安くするみたいな文化もあったりします。 平井:「レストランで食べ残しがある時は、持ち帰る」という方もいますね。日本でも最近は自己責任で、タッパーOKの飲食店が増えてきました。 岡根谷:国によりますが、先進国でも以前から持ち帰るしくみはあります。日本でも持ち帰りができるようになったのは良い反面、持ち帰るために包材を使うので、余計な資源を使っているようで気になっています。 平井:「昆虫食で1日生活」に挑戦した方もいるようです。昆虫食は国連が推奨している食料不足の解決策の一つです。食料問題を解決するための小さな行動として、昆虫食をどう思いますか? 日比:これは、個々人の選択だと思います。昆虫食が嫌な人も、好きな人もいます。 また、昆虫をそのまま食べる以外にも、昆虫を家畜の飼料にすることで効率的に生産するという研究も進んでいますし、このような取り組みは今後色んな形で伸びていくと思います。 平井:常々思っていたんですが、僕はエビが好きなんです。エビと虫の違いは何だろうと考えると、見た目、食感、香ばしさは似ているな。食文化や食慣習は不思議ですよね。頭で食べられると思うものと、食べられないと思うものがあるなと。 岡根谷:この昆虫食で1日生活って面白いなって思ったのが、何かしらの縛りをかけて1日食生活を送ってみると、実は今まで「こうじゃないといけない」と思っていたことってそうではなかったな、とか、あるいは多様な作物が食べられるようになるとか、そういう良さはあるのかなと思いました。なので、1日いつもと違うルールで生活するというのは、やってみたいなと思いました。 平井:食事についてずっと考えることって難しいですよね。「何食べようかな」とかは考えますけど、食料問題については、なかなか考えないと思います。特別な日を設けてやってみると良いのかもしれませんね。
平井:これもぜひ触れたかった話題です。「小さな行動」はありますか?というアンケートに対して「ごめんなさい。ないです」という回答がありました。字面だけなので、これを書いた方の感情は読み取れないんですけれど、日比さんどうですか? 日比:私はえらいな、と思いました。このイベントのプログラムに興味を持って、参加して、私たちの話を聞いてくれているわけですよね。それは、とても勇気のいることだったと思います。このイベントが第一歩になると嬉しいです。 平井:そうですね。「ごめんなさい」と言う必要はないですね。 平井:「SDGsの目標14『海の豊かさを守ろう』について中学生を対象とした食育の授業」をしたという方もいました。講演や食育の場面で子どもたちと接していて気づくことはありますか? 岡根谷:小中学生や高校生はとてもよく考えていて、彼らの方が海洋プラスチックや食品ロス、食料問題についてよく考えて、探究しています。ただ、その言葉がどこまで実感を持っているかというと、どうでしょうか。食の良いところは体験できるところです。話を聞くだけでなく、実際に食べてみたり、料理をしてみると、記憶に残るし、疑問を持つきっかけになります。なので、体験の場を多く作っていきたいと思っています。 平井:他の回答として、「ロングライフ卵の研究開発」というものがあります。牛乳でもロングライフはありますが、通常よりある程度長く品質を保てる食品のことですね。そのほかにも「自分で野菜をつくる」や「廃棄されてしまう規格外バナナを有効活用するプロジェクトの実施」があります。
平井:今回は、「小さな行動」というテーマではありましたが、サイズにこだわらず自分にできることがあれば十分だと思います。最後に、様々な活動をされている皆さんへのメッセージをお願いします。 日比:皆さん色々な取り組みをされていて、勇気づけられました。もはや食料問題は環境問題、エネルギー問題、経済問題の一部でもあります。なので、食料という狭い分野・セクターだけでは解決できないことばかりです。つまり、関係ないと思っても、実は食料問題の解決につながる場合があるのです。 また、世界の飢餓、慢性的栄養不良に圧倒的に影響を与えるのは貧困の問題です。気候変動や経済ショック、紛争などに襲われたとき、真っ先に食べられなくなるのが貧困層です。この脆弱性をなくさなければ、栄養不良はなくせません。どうやって貧困をなくし、身体に良い食べ物を食べられるシステムを作るかという部分が重要です。 岡根谷:「食べ切る」以外の多様な取り組みが挙げられたことに希望を感じました。特にロングライフなど技術の話はなるほど確かにと思いました。様々なレイヤーの取り組みが生まれてきて、ちょっとでも世の中が良い方向に向かうためには、食料や貧困、資源などの課題に興味を持つきっかけが増えると良いと思います。例えば、お店でモーリタニア産のタコを見つけたら、国について調べてみるとか、たまに日常の中でも興味を広げられると良いのかなと思いました。 平井:ありがとうございます。そういう広げ方は楽しいですよね。
Q&A
Q日本の国産品よりも輸入品の方が品質の良いものはありますか。 岡根谷:日本で流通する塩サバのほとんどはノルウェー産ですよね。日本でもサバは獲れますが、北欧で獲れたものは脂が乗っているため好まれます。また、これは好みによるかもしれませんが、牛肉は赤身のオージービーフの方が好きという人も増えてきていますよね。 Q岡根谷さんが食べたことのある外国の料理で日持ちの良い料理を教えていただきたいです。 岡根谷:冷蔵庫ってすごいな、と思います。冷蔵庫がないと食べ物は当日か翌日に食べ切る必要があるので、それによって保存ができるようになります。しかし一方で作ってしまっても大丈夫、買いすぎても大丈夫ということになっているという点もあるかもしれません。 Q飢餓問題は紛争とも関連する場合があると思いますが、飢餓問題と同時に紛争の解決に向けてどうすれば良いでしょうか? 日比:紛争が飢餓の原因になることもあれば、飢餓や食料問題、資源問題が紛争の原因になることもあります。紛争地になることで、まずその地域での食料生産ができなくなり、流通網がダメになり、消費できなくなります。あるいは天然資源を巡った紛争も起こります。特にあるのは、食料の生産にも必要な水資源をめぐる対立です。 そこで、どのように水資源やその他の天然資源をみんなで共有して、対話し、紛争にならないよう管理していくかが大切です。話し合えば必ず解決につながるというわけではありませんが、FAOでも話し合いのルールを提示して対話の機会を作ることで、将来の紛争を少しでも回避するような取り組みもしています。 Q学生ができる一番身近な食料問題解決のための取り組みはなんだと思いますか? 岡根谷:学生がやると、大人がやるよりも、同じことでも絶対に注目されます。ものづくりにしても、呼びかけにしても、行動を起こすこと自体がすごく大きな力になります。さらにそこに大人や違う学年の人を「巻き込む視点」が入っていくと、より大きな動きになっていくと思います。
登壇者から参加者へのメッセージ
日比:近年、食料というのは、農業食料システムといって、環境や人権、経済、貧困など様々な問題と連動しています。たとえば、ウクライナの戦争を目の当たりにして、「何ができるのか」と大海の中にポツンといるように感じるかもしれません。大事なことは、バランス感覚と多様性です。世界にも、日本の中にも多様性がありますので、バランス感覚を大切にしながら、「何ができるのか」「何が良いのか」を自分で考えることが重要だと思います。 また、マイクロプラスチックによる水質汚染など環境問題も結局は食に還ってきます。今日は様々な課題を挙げましたが、興味のあるところから入っていただいて、柔軟な発想で知り、考えてもらうのが良いと思います。 岡根谷:今日は海外の事例を話すことが多かったのですが、世界は多様です。参考になる事例もあれば、前提が違いすぎて参考にならないという事例もたくさんあります。一方で、外の世界を見ていると、日本の良さも見えてきます。「もったいない」という感覚や、前日作った料理を弁当に詰めて翌日持っていく習慣などは良いところです。日本の良い部分にも目を向けつつ、自分の半径5メートルでできることを見つけていけると、未来は明るそうだなと、皆さんの話を聞きながら思いました。 平井:食品ロスをずっと探求してきましたが、食べ物を捨てることは「もったいない」という感情で表現されがちです。地球環境や食品ロスを意識することは大事ですが、自分の幸せという点も大切にしてほしいです。学校現場で食品ロスや地球環境の話をすると、背負い込みすぎてしまうことが多くあります。真剣に考えることは大事なことですが、何かを犠牲にしてでも食品ロスを削減することの大切さと、自分の幸せの大切さなどを何度でもモヤモヤと悩み、向き合うことが大事だと思います。食べることってエンタメでもあるし、美味しく食べたいですよね。今日のイベントが、楽しみながら食と向き合うきっかけになっていたらいいなと思います。