vol.13イベントレポート
主催:FAO日本事務所
日時:2011年9月28日(水)14:00~16:00
場所:アジア会館
今回のセミナーでは今年の「世界食料デー」のテーマ「食料価格:危機から安定へ」と題し、国連食糧農業機関(FAO)のデータや分析を紹介しながら、不安定な動きをする世界の食料価格の変遷と最近の動向、背景、影響等について考え、今後の対応について提議しました。
(文責:FAO日本事務所)
食料価格の動向
1970年代の食料危機の後、2000年代前半まで続いた安く、安定した食料価格の時代は終焉し、高く、不安定な食料価格の時代に入っています。
従来と異なる需給環境の要素としては、農産物の用途としての食料とエネルギーの競合の激化、食料市場の金融市場化、伝統的な穀物輸出国の過剰生産の解消及び穀物在庫水準の低下等があげられます。世界人口の増加、所得向上による畜産物消費等の拡大等による需要の増大、土地、水、生物多様性等の資源の悪化、気候変動の影響などによる供給面での制約は、今後も、続きます。更に、食料の国際貿易のルールは、輸出と輸入で不均衡であり、輸出規制のリスクは常にあります。これらは、今後も、高く、不安定な食料価格が続くことを示唆するものです。
食料価格の高騰は、支出に占める食料の購入費の割合の高い貧しい人々に大きな影響を与えます。これらの脆弱な人々は、世界経済不況による所得の減少と相まって、十分な食料を入手できなくなり、世界の飢餓人口は9億人を超える水準に達しています。2007年から2008年にかけての食料危機と言われた時期には、20ヵ国以上で食料暴動が起り、また、2011年に入っての北アフリカや中東での政変の要因のひとつには食料価格の高騰が指摘されています。食料への権利が実現されないことは不公正な社会を象徴するものとしてとらえられ、政治体制を揺るがす力となっています。
現状の課題と今後の対応
安く、安定した食料価格が続いた数十年にわたり、多くの国の国内政策において、また、開発援助の面で、農業部門が軽視されてきました。先進国の政府開発援助に占める農業の割合は、1980年の19%から5%にまで低下しました。他方、貧困国の国際経済への統合は、食料輸入の増大という形で進展しました。これまでの農業への投資の不足が、今日の不安定な状況の根本的原因です。また、食料と競合するバイオ燃料については、助成策や使用の義務付けは廃止されるか、少なくともより柔軟なものにすべきです。投機資金については、価格変動を増幅させるおそれがあることから、先物市場等の情報、透明性の改善が求められています。
飢餓人口の削減は、世界が直面する最も困難な課題のひとつですが、食料価格や燃料価格の高騰・不安定性、政治的紛争、農業部門への投資の不足のため、それに向けての努力は一層困難になっています。今日ソマリアで起きているように、多くの貧困国において、惨事を回避するために必要なセーフティネットが整備されていません。また、貧困を軽減し、女性の能力を強化し、マーケット・アクセスを改善し、生態系や天然資源を適切に管理し、持続的農業を推進するための長期的な投資は、十分な速度で進捗していません。飢餓の削減という国際社会の目標を達成するためには、さまざまな関係者の連携を図りつつ、国際社会の支援を得た国家主導の対応が強化されなければなりません。
当日の参加者は53名で、10代から70代くらいの幅広い年齢層の方々にお越しいただきました。一般参加者に加え、省庁やNGO、メディアからの参加も数多くありました。「日本の食料安全保障さえ良ければいいという状況ではなくなった」、「ネットワークに国内の有機農業成功者をもっと巻き込んではどうか」などの声が寄せられました。