「食」の問題の解決に向けて、みんなでアクションする1ヵ月。
「世界食料デー」月間2023 10/1-31

「世界食料デー」月間2022 プレイベント 第2回:ブタから世界を見る ―グローバルな食と地域に根ざした食

vol.59イベントレポート

主催:「世界食料デー」月間2022
日時:2022年9月1日(木)19:30~21:00
場所:Zoomミーティングルーム

10月の「世界食料デー」月間に向けたプレイベント第2弾として、9月1日(木)の19時30分~21時にオンラインイベント「ブタから世界を見る ―グローバルな食と地域に根ざした食」を開催。グローバルな食料システムを政治・経済・社会・歴史の観点から研究している京都橘大学准教授の平賀緑さん、そして小豆島でブタの放牧飼育を実践している「鈴木農園」の鈴木博子さんにご登壇いただき、約80名の方に参加いただきました。

グローバルな食(平賀 緑さんのお話)

今の農と食は本当に「自然の恵み」で「生命の糧」?

農や食の話というと「自然の恵み」や「生命の糧」と捉えられることが多いですが、現代の農と食は本当にそうでしょうか。現在、大手スーパーやコンビニで販売され、私たちの口に入る食べ物の多くは、化学肥料や農薬を大量に投与する工業化された農業によって生産され、グローバルな食料システムの中で流通しています。このグローバルな食料システムは、生産や流通が1ヵ所でも止まると、消費者への供給が簡単に止まってしまう脆弱なシステムです。また、大量の生産・流通をともない、気候変動も引き起こしてきました。つまり、現代の農と食は「自然の恵み」や「生命の糧」のイメージとは裏腹に、人々の健康や地球環境を脅かしています。

ウクライナ・ロシアからの輸出が再開すればOKか

ここのところ、世界で食料価格が高騰しています。特に小麦はウクライナとロシアが世界の輸出量の約3割を占めていたため、海上輸送の寸断で中東諸国などの小麦の価格が高騰、パンを買えない人たちが増えているという話を皆さんも聞いたことがあるでしょう。実際、小麦の価格は開戦以降、上がりました。

では、ウクライナ・ロシアからの小麦の輸出が再開すれば問題は解決するのでしょうか。開戦前から、各地で続いている紛争や気候変動などにより飢餓が続いていました。また、食の歴史を紐解くと、人類が食べてきた植物は5000~7000種類以上ありますが、今は小麦・米・トウモロコシの3種のみが世界のカロリー摂取の半分以上を占めているといういびつな構造になっています。その3種の主要穀物は投機の対象となり、生産量、在庫量よりマネーゲームのコマとして価格が動かされる様になりました。貿易が止まったから食料危機に陥った、というだけの話ではないのです。こうした背景には、グローバルな食料システムのなかでコストを減らし、利潤を最大化するようなビジネスが展開されてきたことがあります。化学肥料、農薬、種子の世界市場は数社による寡占の状態にあり、広大な土地でこれらの資材を投入して単一の作物のみを育てる「工業的」な農業を世界に展開してきました。その少ない作物が少数の大企業が占める流通網を通り、少数の大手のスーパーによって売られ、私たちの食卓につながっている。つまり問題は、ごく限られた作物を、限られた国・企業が生産し、限られた数の企業が流通、加工、販売をしているというところにあるのです。一カ所が崩れると全体が崩れる、という危機にもろい状況であり、実は新型コロナやウクライナ・ロシアの戦争以前からその脆弱性は指摘されていたのです。

肉食そのものが気候変動の原因か

温室効果ガスの約4分の1は農業など食に関わる活動によって排出されており、グローバルな食料システムは、気候変動とも関係していると言えます。なかでも、豚肉1kgを生産するのにCO2が7.8kg排出されるなど、現在の畜産業は気候変動の大きな要因の1つで、環境のために肉食を避ける動きも見られています。では、畜産や肉食そのものが問題なのでしょうか。

世界の豚肉生産の約3分の1を占める中国では、各家庭が農業をしながら少数のブタを飼育する「裏庭養豚」が2000年ごろから大幅に減少しています。これに代わって、動画『Meatrix』(https://www.youtube.com/watch?v=yyHHFijwO_o)で指摘されているような、狭い豚舎でブタを大量に育てる畜産方法が急激に増えています。豚舎に閉じ込められたブタは、人間が餌や排泄の世話をするようになりましたが、豚肉生産で排出されるCO2の約80%は、この餌の生産・輸送やふん尿処理によって発生しています。また、ブタの餌となるのは、前述の「工業的」な農業によって生産された小麦やトウモロコシです。利潤の最大化を求めるグローバル企業は、穀物を「原料」とし、ブタに「加工」して出荷することで、さらなる付加価の獲得を実現したのです。つまり、気候変動の観点でも、問題となるのは畜産そのものではなく、プロセスの工業化・ビジネス化です。

このような食の問題の根底にある資本主義のからくりについては、著書『食べものから学ぶ世界史』で紹介しています。

人も自然も壊さない食料システムとは?

現在、人間が食べられるはずの穀物は、家畜の飼料だけでなく、バイオ燃料などの生産にも使われています。このように穀物に付加価値を添加し、その市場を拡大する資本主義経済から脱し、人や自然を壊さない経済を実現するにはどうすればいいでしょうか。 私が以前、丹波で畑をしていたときは、複数の作物や生き物を育てていました。トウモロコシの根元に豆やかぼちゃを植えると、トウモロコシに絡んで豆が育ち、かぼちゃが地中の水分を守り、鶏や鴨が草や虫を食べ、全ての残渣を堆肥にして土に戻すことで肥沃にしていました。

このような小さな農場は十分に実現可能です。実際に、世界の食の約70%を支えているのは小農によるネットワークと言われています。世界的な食料危機と気候変動が深刻化する今、このような地域に根ざした食と農を強化していくことが重要です。

地域に根ざした食(鈴木博子さんのお話)

セネガルから小豆島へ

私は青年海外協力隊がきっかけでセネガルに暮らしていました。セネガルでは、1週間にレジ袋1袋しかゴミをださないシンプルな生活を送っていました。渡航前は肉食に抵抗があったのですが、セネガルで家畜が自ら餌を探して歩き回っているたくましい姿を見て、肉を食べてもいいかなと思えるようになりました。帰国のきっかけは、子どもが「日本で勉強したい」と言ったことでした。帰国後、国際理解教育や市民活動支援に携わるなかで、「啓蒙や支援よりも、自分がひとつの波紋となり社会とかかわりたい」「ずっとやりたかった農を糧に生きていきたい」と思うようになり、故郷・小豆島の耕作放棄地で放牧養豚を始めました。ブタに目を付けたのは、放牧場を囲むソーラー発電の電気柵さえあればブタは飼え、また、人間が食べられないもの・食べきれないものを食べてくれるからです。放牧養豚は私にとっても挑戦でしたが、「子どもたちに役に立つ大人になってほしければ、まずは自分が挑戦している姿を見せたい」「変わったことをしていたら、変わった生き方をしている人たちが集まってきて、その姿を見ている子どもたちは人生の選択肢が増える」という思いがありました。

経済・環境・社会的に持続可能な農業を目指して

ブタの餌になっているのは、具体的には給食センターや飲食店などの残飯、野菜くず、くず米、おから、ビールのしぼりかす、そうめんくず、さつまいものつるなどです。また、島の農家が規格外の野菜・果物や刈った草を「ブタに食べさせて」と届けてくれます。

地域の食料を食べながら放牧で育つブタは、嬉しいと尻尾を振り、寒いと草の中で暖をとります。このようなブタの姿や息づかいを感じてもらうため、農園は子どもたちにも開放しています。なかには、「ブタ見学」のまとめの掲示物を作ってくれた幼稚園もありました。

8年前に子豚3頭でスタートした養豚は、今では年間50頭ほど出荷できる規模になりました。ブタの肉はどの部位も同じ価値だと考え、同じ値段で販売しています。頭や背脂、骨などを取り除くと肉になるのは半分ほどですが、共感くださったレストランが頭や内臓も使ってくれます。ほかにも島の飲食店や加工業者が餃子やハムを作り、ブタのいのちを残さずに分かち合うことができています。

まだできていないことも多いですが、ブタや働く人、食べる人、地域のすこやかさ、しなやかさを育むように努力し、経済・環境・社会的に持続可能な農業を目指しています。

ブタを飼うことで見えてきた島の農業・食

島の農家からブタの餌として届く野菜や果物は、農家が大切に育てたもので、味も濃いものが多いです。これらが市場に出せないのは、形が悪かったり、虫食いがあったりするためです。せっかく野菜や果物を育てても、一部は市場に出せず、その処分にも手間がかかるため、農家は高価値・低労力のオリーブなどの産品に移行しつつあります。 また、地域の「生産」と「消費」の乖離は、学校給食にも見られます。給食では、虫が1匹でも混入していれば全て廃棄してしまうこともあるため、地元の生の野菜ではなく、調理済みの野菜を使う方向に進んでいます。

アインシュタインは、「同じことばかり繰り返して、違う結果を望んではならない」という言葉を残したと言われています。ゲイブ・ブラウンの『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』の中で、とある農家がこの言葉を引用しながら、「この先の未来を考えたら、どう考えても世界には『違う結果』が必要なんだよ」と言っています。「違う結果」のためにいま行動を変えなければ、人間が住めない世界になってしまうのではないでしょうか。

Q&A

私は環境問題の根本はお金だと思っています。平賀さんはお金についてはどのようにお考えでしょうか?
平賀さん:お金そのものというより、際限ない成長を求めて農地さえも金融商品にしてしまう現在の資本主義の仕組みが地球を壊しています。このようなグローバル資本主義のからくりをまず理解することが必要です。

食料残渣はどのように提供してもらっているのでしょうか?
鈴木さん:おからなど特定の食料が欲しくて自分から探すこともありますし、紹介してもらうこともあります。ただ、残渣を受け取ることには競合もいないので、だいたいは「とりに来てくれるなら」とOKしてくれます。ブタを飼い始めて大きな問題が起きないことがわかってからは、自ら残渣を譲ってくれる地域の人も増えました。特にそうめんくずは燃えにくく、重油を使って処分していたので、ブタの餌として引き取ると感謝されます。

消費段階での食品ロスが減り、生産・加工段階での食品ロスのみになると、鈴木さんの農園にとってはマイナスなのでしょうか?
鈴木さん:農家は人が食べるために作っているので、期限が近い食べ物を使ってくれるレストランや子ども食堂があれば紹介しています。そのことでブタの餌が足りなくなった場合には、そうめんくずなど穀物の餌を増やすことでカロリーを調整しています。

穀物が家畜の飼料になり、人間が食べられる食料が減っていることについて、どのようにお考えでしょうか?
鈴木さん:もともと、家畜は英語で「ライブストック(Livestock)」と呼ばれているように、人間が食料を生産できない地域や季節に、人間が生き延びるために育てられていた動物です。ウシやヤギ、ヒツジなどは人間が消化しにくい草を主食に、ブタは人間が食べきれない・食べられないものを餌として、いずれも肉を得るために飼われていました。現在の家畜たちは、人間が食べられるトウモロコシを餌に飼われていることが多く、人間が直接トウモロコシを食べるより非効率的で、地球温暖化による大雨・干ばつで食料不足も深刻になると予想されます。家畜の飼い方や肉を食べるということを、飼う人も食べる人も考える必要があると思います。

養豚業を未来に向けて続けていくためにはどうすればいいでしょうか? 養豚業への就職の課題とは何でしょうか?
鈴木さん:世界では「アフリカ豚熱」、日本でも「豚熱(豚コレラ)」というブタの伝染病が流行っています。日本では、飼われているブタが1頭でも豚熱に感染したことが発覚すると、全頭殺処分になります。感染地域では、豚熱の予防接種をするほか、イノシシには経口のワクチンを山にバラまいています。予防接種をしたブタは感染しないと言われているのに、感染したブタが発見されると全頭殺処分という矛盾した決まりがあり、我が家の場合は、放牧で土地を消毒することはできないので、感染してしまった場合は廃業の予定です。このような不安的な状況では、近い未来のことも計画しづらく、養豚業のリスクを考えると後継者を見つけるのも難しいのではないかと思います。
養豚業への就職に関しては、人材不足なので、就職することはできると思います。課題としては、国が考える養豚をしている大規模な養豚の現場しか就職先がなく、現場で疑問が出てきても飼い方などを変えるのが難しいのではないでしょうか。

豚熱など感染症への対策はどのようにされているのでしょうか?
鈴木さん:柵の二重化や、出入り口の消毒、肉が含まれたり触れたりした可能性のある食材は過熱することなどを行っていますが、ブタの免疫力を高めるために、ブタが過度のストレスなく過ごせる環境を整えること、野菜や草などを与えることを心がけています。

ブタはなぜ世界中で家畜として受け入れられたのでしょうか? また、飼育の様子はどのように地域で異なるのでしょうか?
鈴木さん:ブタは牛などの草食動物と違って、人間が食べられないものを何でも食べてくれるので、人間の住む地域ならどこでも飼うことができます。手に入る餌や環境に合わせて、工夫して飼っている結果、地域で飼い方や餌、ブタの種類が発達したのだと思います。

日本はすでに野菜の種や鶏のヒナの多くを海外に依存しています。もしコメも同様に海外で種採りが行われるようになれば、輸入が途絶えたときに日本は飢餓に直面するだろうと言われています。この点について、どのようにお考えでしょうか?
鈴木さん:耕作放棄地の多くは手を加えたら農地に戻すことができるので、アメリカから厳しい経済制裁を受けていたキューバのように、自国で肥料も自給自足できるはずです。輸入が止まった場合、半年で自給率を高めることができると思いますが、石油の輸入が止まってしまった場合、トラクターや軽トラックが使えない状態で、現在の生産量でさえ生産を続けられるのか分かりません。

どの畜種にせよすべての畜産農家が放牧をするのは土地のスペース的に不可能かと思います。放牧まではできない場合、どういった飼育方法までが許容範囲でしょうか?
鈴木さん:放牧も、面積当たりの密度や餌の種類などいろいろ農家によって違います。季節の恵みをブタにも食べさせてあげたいし、土堀りを満喫しているブタを見るのは楽しいので、私はこのような飼い方をしています。国内の養豚農家さんがすべて放牧で飼うことは現実的ではありません。手ごろにお肉が食べられる今の食料環境は、豚舎や牛舎、鶏舎で飼っている農家さんたちのおかげです。飼料や労働を考えると、お肉はもっと高く売られるべきで、得た利益で、各農家さんが環境や家畜に配慮した飼い方を模索できるようになったらいいなと思っています。

いつも鈴木農園さんのお肉を購入しています。世の中ではサブスクビジネスが流行っていますが、放牧していると毎月決まった量のお肉を生産するのはやはり難しいのでしょうか?
鈴木さん:我が家の場合、月に2回販売していて、月に1・2回定期的に購入くださる方がいることと、部位を問わずおまかせで買ってくださる方たちのおかげで、得られるお肉の量を推測することで、余裕のあるお肉は、不定期にご注文くださる方に販売しています。

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