vol.02インタビュー
結婚式や歓送迎会などで大量に出される料理。食べ切れずに残してしまい、もったいないと思ったことがある人も多いのではないでしょうか。食料の約6割を輸入に頼る日本で、1年間に捨てられる食べ物の量は約1900万トン。そのうちまだ食べられたはずの食べ物は500~900万トンといわれています。今回は、国際協力NGOと協力して、食べ残しなどの生ゴミを減らす取り組みを行っている、東京・麻布十番の「ギャラリーカフェバー縁縁」のオーナー両角さんにお話をうかがいました。
食を通して生まれるつながり
グラフィックデザインの企画・制作会社を共同経営する両角さん。仕事やプライベートを通して出会う才能のあるアーティストに少しでも発表の場を提供したいと、仲間と始めたのがギャラリーカフェバー縁縁でした。両角さんは、アーティストの作品を展示する場所として、なぜ飲食店を選んだのでしょうか。「人々が生きるために欠かせない衣食住のなかで、食べることは一番大切なこと。それに食べ物を提供する場所には自然と人が集まってくるので、新たなコミュニケーションが生まれやすいと思ったからです」。
縁縁では作品の展示だけでなく、キャンドルアーティストと一緒にキャンドルの明かりだけでお店をオープンしてゆったりした時間を過ごせるイベントを月1で開催したり、お客さんにマイコースターを作ってもらってお店で預かることで使い捨てを減らしたりと、環境を意識した取り組みを実践しています。また、カフェで提供しているコーヒーには、森林や野生動物を保護し現地労働者の権利が守られるレインフォレストアライアンス認証の豆も使っています。このような試みを通して、人と人との新たなつながりも生まれているといいます。
飲食店にできること「生ゴミダイエット作戦!」
2007年6月には、そんな話を聞きつけた国際協力NGOハンガー・フリー・ワールド(HFW)が、縁縁で西アフリカ・ベナンの写真展を開催。実は、この写真展で一番心を動かされたのは、毎日写真を目にする縁縁のスタッフだったそうです。世界には十分に食べられない人たちがいる中で、仕事とはいえ毎日食べ物を捨てている自分たち。そこで、何かできることはないかと、2007年10月からHFWと一緒に、「生ゴミダイエット作戦!」を始めました。これは毎日お店から出る生ゴミの量を計測してHFWのホームページに掲載。お店から出るゴミの量を公開するという大胆な取り組みです。始めた当初は一部のスタッフから「何でこんなことをやるんだろう」という声があがったことも。「ダイエットって始める前は腰が重いかもしれません。でも、やり始めて500グラム、1キログラムと体重が減っていくとトレーニングにも身が入るし、どうやったらより楽しくできるか、より体重が減るか考えるようになりますよね。生ゴミのダイエットもそれと一緒。毎日の結果を数字で見えるようにしたこと、毎日必ず量るとルールを決めて取り組んだことで、スタッフにとって生ゴミを減らす試行錯誤が、徐々に当たり前になっていきました」と両角さんは振り返ります。
新しく生まれるアイデア
今年で3年目に突入する「生ゴミダイエット作戦!」。今では生ゴミの量を計測して報告するだけではなく、調理場から出る生ゴミを減らすために、スタッフ1人1人が食材を大切にするようになったそうです。「野菜を皮ごと食べられるよう工夫したり、仕込みの量を調節したり。お店から出る食べ残しに対するスタッフの意識が変わったことが、一番の成果だと思います。今では、生ゴミが多く出た日には、なぜ今日はこんなに食べ残しが多かったんだろう、と振り返りながら、仕込みの量を調整するなどしています」。 他にも、どうしても減らせなかった生ゴミを肥料にしようというアイデアがスタッフから出され、実現に向けて試行錯誤中です。「できた肥料をお店の観葉植物にまいたらどうだろう」、「ガーデニングが趣味のお客さまにプレゼントしたら喜ぶかも」など、新しいアイデアが次々と生まれています。「お店で出てしまった生ゴミを肥料にして畑にまいて、その畑で育てた野菜をお店で料理して、という姿が理想です。地方だと実践しているお店があると聞いていますが、いつかお店のある東京・麻布十番でもそんな循環が生み出せたら最高ですよね」と両角さん。
物を大切にすること、無駄をなくすこと
両角さんは、今年に入ってから野菜ソムリエの資格をとり、その知識をお店のメニュー開発に生かしています。また、自宅で栽培したバジルをお店の料理に使ったりと、取り組みはお店の中にとどまりません。日頃の買い物や料理の際にも、できるだけ無駄を出さないように心がけているそうです。「私たちにとってはモノがあふれていることが当たり前ですよね。日本では、食べ物やきれいな水を含めさまざまなモノがあることに慣れきってしまい、感謝の気持ちが薄れている気がします。そんな私たち日本人にとって、食べ物が足りていない人たちの気持ちを本当に理解することは、正直言って難しいかもしれません。でも、自分の目の前にあるモノを大切にすること、無駄を出さないように意識して生活することは、誰にでもできるはずです」。
ある日、偶然生まれたつながりから育まれた、食べ物を大切にし無駄をなくそうとする意識。楽しみながら続けてきたことで編み出された新たなアイデア。まずは、他の誰かではなく自分自身の日常生活を見つめなおし、自分にできることから始めてみることが、周りの人たちの食に対する意識を変えていく第一歩になるのかもしれません。世界中で生産された食料に支えられて成り立つ日本人の食生活。私たちの食への意識を変えていくことは、世界の食問題の解決に無関係ではないはずです。
プロフィール
株式会社スタジオイー・スペース取締役、野菜ソムリエ。2003年、4名の共同オーナーにてギャラリーカフェバー縁縁を設立。2008年夏には、人にも地球にも優しい情報を発信するWebサイト「ロハスイッチ」を開設。野菜ソムリエの資格を取得し、旬の野菜を取り入れたカフェメニューの開発など、食を通じてのコミュニケーション にも積極的に取り組んでいる。