「食」の問題の解決に向けて、みんなでアクションする1ヵ月。
「世界食料デー」月間2023 10/1-31

株式会社SATOKA代表取締役
酒井 慎平さん

vol.33インタビュー

<プロフィール>
長野県出身、大学を卒業後、外食BtoB向け広告代理店に入社。外食業界誌「フードリンクニュース」編集長に26歳で就任。同年6月に、外食業界誌16社で構成される外食産業記者会の代表幹事に就任。29歳で独立し、フードアナリスト、コーディネーターとして活動。フードビジネスオンラインメディア「FOODUPDATE」、地域食材販売支援「JiNOMONO」を運営するなど、食の価値創造をミッションに多岐に渡って活動。2021年9月に株式会社SATOKAを地元長野に設立。同年12月、長野で国産長期熟成生ハム「掬月(KIKUZUKI)」の製造を開始し食の価値創造を目指す。同月、株式会社Tablesの代表取締役に就任。

株式会社SATOKA代表取締役の酒井 慎平さんに2021年10月1日開催の「World Food Night 2021 with 横浜」で発表いただいた内容をまとめました。

長野のはね出し食材にプラスの価値をつけて全国へ

新卒でBtoB(Business to Business:企業間取引)向けの広告代理店に入りました。「こういうのを流行らしたいよね」という要求にこたえていく会社で、外食専門誌の編集長を26歳からやらせていただいていました。29歳で地元の長野に戻り、価値創造という点で飲食店に限らず卸や生産者も含めて新たな食の価値提案をする事業を行っています。その一つとして、地域販売支援で「JiNOMONO」という事業を行っていて、全国に出回らない地元の食材を、地元をはじめ全国の飲食店につなげて新しい価値を生み出す仕事を行っています。その一つに、はね出し食材と飲食店のシェフをかけあわせた“あるをつくして”プロジェクトというのがあります。宴会の終わりなどに、食べものが残っていると思うのですが、長野ではよく挨拶とともに「あるをつくして」残さずに食べましょう」という意味合いでよく使われている言葉です。
曲がっていたり傷んでいたりしているニンジンでも、飲食店で加工調理するには問題ない食材なので、捨ててしまうような食材を引き取って、飲食店で新しい価値にしてもらう取り組みをしています。
メリットは生産者にとっては環境に配慮した農業ができるということと、飲食店にとってはストーリーで付加価値化、規格外品を使っているということでプラスの価値をつけることができます。デメリットは、農業側は選別加工する時間が必要な割に単価が安いということです。いろんな課題をかかえながら取り組みを行っています。

台風被害のリンゴを生かす取り組みが多くの共感を呼ぶ

そんななかで2019年10月6日に台風19号という名称でニュースになった台風で、今は令和元年東日本台風とよばれていますが、全国的に大きな被害を出した台風がありました。僕の暮らす地域の近くの千曲川も堤防が決壊し、一帯が水浸しになって地域のリンゴ農家が大きな被害を受けました。こういった被害に対して、地のもの、地域販売支援としてどういうことができるか考え、台風被害にあった翌日に「災害支援りんご」というロゴを制作しました。そして、被災されたリンゴ農家を募り始めました。支援できるスキームをまず考えるために生産者のグループを作りました。そして飲食店用の差し込みポップを作って、被災を免れた安全なリンゴ、を提供してもらえないか、飲食店に配布しながら告知していきました。ポップはお店の各テーブルに差し込みポップとして置いてもらい、「これが被災したリンゴなんだ」とポップを見ながら新たな価値提案とともに食べてもらうようにしました。

その成果として、開始1ヵ月で取り扱ってくれるお店が100店舗を突破しました。原宿の行列をつくるアイスクリーム屋さんでリンゴのキャンペーンメニューを作っていただいたり、カフェベーカリーでパンのなかにリンゴを使っていただいたり、居酒屋で帰り際にお土産としてそのまま渡してもらったり、ドリンクカフェではカルバドスに使ってもらったりカクテルに使ってもらいました。タルトタタンも各種飲食店でメニューにして提供してもらえました。

これ(スライド)はワンハートというロゴのマークですが、今年もあれから2年たちましたが、11月から1ヵ月間、今度は長野県主催で、「ワンハート頑張ろう長野」という、リンゴ以外にも長芋やネギなどをつくる被災した農家さんを含んで長野駅でキャンペーンを行うことになっています。大変な被害を被り廃業寸前まで追いやられた生産者さんや、もう食べられないと思っていたものを食べる喜びを、新に価値として飲食店で提案することによって、今コロナに苦しんでいる飲食店にとっても新しい励みをなることができる試みになっているのではないかと思います。

廃棄されるジビエを活用して新しい食材に

もう一つ、地方にも大きな課題があります。ジビエです。最近ではジビエ料理も徐々に定着して、シカ、イノシシ、クマ、ウサギ肉を食べるシーンも増えているかと思います。農林水産業の資料では、2019年に前年よりジビエ利用が16%増加し、ペットフードなどに利用されジビエの普及が進んでいます。ただ、現状の利用率はたった8%、残りは埋設や焼却処分で食とは程遠い扱いにされて処分されています。こういったジビエに対する取り組みは地方ではよくわかっているのですが、なかなか食べる利用までにつながっていません。飲食店にとっても利用が難しく、野生生物なので規格自体が定まらない課題もあり、捨てられてしまうのも仕方がないかなとみなさん受け止められているところがあります。
そんななか、今年の12月から長期熟成生ハム「掬月(KIKUZUKI)」という、一年以上自然の気候に合わせて熟成させた骨つきの生ハムの事業を開始します。ハムはふだん豚肉を使いますが、地元のイノシシ肉を使った生ハムの商品開発をする予定です。もちろん地域の食材を生かした商品開発には、飲食店のような伝え手が不可欠なので、ただ商品開発をするのではなくて、しっかりと目に見えないバックボーンをお店で直接伝えていくことが、新たな価値が生まれるきっかけになっていると思っています。

今日は、地方での生産者サイドからのフードロスに対する取り組みを紹介させていただきました。生産者サイドも食材を作るにあたって、生かしきれない食材がたくさんあるという課題を抱えています。でも、お客さんにおいしさや食べる喜びを感じてもらえる飲食店で、はね出し品やジビエをしっかり活用しているということが、新しい共感を生んで価値になっていると信じています。

今回フードロスをテーマに話していますが、ほかにも食に新たな価値をということをミッションに活動をしています。FacebookやTwitter、Instagramなどで発信をしていますので、フードロスや食の価値に対して何かのきっかけになればうれしいです。

Q&A

Q: 企業として利益も出さないといけないと思いますが、どのようにされていますか?
酒井さん: 食べ残しとかはね出し食材を活用していくとなると、やはり事業性の利益は非常に小さくなります。でも、それだけが価値提案にはなりません。食材そのものの価値提案にいろんなものがあるなかの一つが、もったいない食材、はね出しの活用なので、トータルな食材のおいしさ・価値のなかにフードロスの取り組みを入れることで相互理解が深まるという事業運営になってくるのではないかと思ってやっています。

プレゼンテーションを終えてのコメント

参加者のみなさん素敵なコメントをたくさんいただきありがとうございました。いろんな飲食店、いろんな生産者がいて、その人たちの思いが共感にむすびついて価値になっていないのではという気がしています。広告業界にいる私が言うのもなんですが、飲食店、ビジネスのリアルな話を一過性のものにしてはいけません。素敵なフードロスの取り組みがいっぱいありますので、こういった取り組みが永遠に続いて生活になじんでいけばいいと思っています。そのためには価値を押しつけないことが大事なのかなと思います。「この日本酒の銘柄がわからないやつは飲むな」「このワインの生産地が理解できないやつは飲むな」という押しつけがましい価値ではなく、足元から一つずつすくい上げていくような、生産者や飲食店の方の思いに共感して商品につなげていくフードロスの取り組みが、どんどん広がっていくといいなと思っています。


2021年10月1日開催の「World Food Night 2021 with 横浜」イベントレポートはこちら

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