「食」の問題の解決に向けて、みんなでアクションする1ヵ月。
「世界食料デー」月間2023 10/1-31

FAO駐日連絡事務所
日比絵理子さん

vol.32インタビュー

FAO駐日連絡事務所 所長の日比絵理子さんに2021年10月1日開催の「World Food Night 2021 with 横浜」で情報共有いただいた内容をまとめました。(文責:ハンガー・フリー・ワールド)

世界の食料とロス・廃棄 何度ももったいない現実

なぜ食料のロスと廃棄が「何度ももったいない」のかと思われるかもしれませんが、簡単に10分以内で話したいと思います。
それを話すうえで、世界の食料安全保障の現状、新型コロナウイルス感染拡大がどのような影響を与えたかについて、まず話します。

食料安全保障というと、国の食料の自給率と考える方が多いのですが、国際社会ではそういう意味でなく、このスライドにある定義「すべての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的および経済的にも入手可能であるときに達成される状況‐供給、アクセス、利用、安定」を示します。ちゃんとした量の食料が生産され、供給されているのか、そして実際に食料にアクセスできるのか、つまり経済的に手の届く価格内で市場に出回っていて、そこに物理的に行けるのか、買えるのか、そして、利用というのは、ちゃんとした食料を購入してもそれをきちんと利用できているのか、栄養価を無駄にしていない、それこそ廃棄にも関係してきますが、全部使い切っているのか。安定というのは、今週あるが来週ないとか、あるいは夏の間はあるが冬はないというようなことがないということです。これらのさまざまな問題がない場合に初めて食料安全保障が達成された状況であるということになります。

世界では30億人が健康な食事をとれていない

世界の現状を見ていきますと、世界のすべての人を養うだけの十分な食料は生産されています。ところが2020年の世界の飢餓人口は最大8億1100万人。これは2019年よりも1億6000万人も増加していて、何十年かぶりの急上昇でした。そして、カロリー以上の問題として、世界で30億人が健康的な食事をとれていません。経済的な理由で、健康的なバランスのとれた体に良い食事をとれない、これは貧困と関連があります。実際にバランスのとれたな食事は、エネルギーを満たすだけの食事の5倍の費用がかかると言われています。

このような背景にあるのは気候変動、紛争、経済的な理由の3つの要因があるといわれ、2030年のSDG2:飢餓の撲滅は、このままでは達成困難と言われている状況です。(上記折れ線グラフの)右側のぐっと上がっている状態が飢餓、栄養不良の人口が増えたということです。全地域で増加しています。次の栄養に関するグラフの右側のグレーのところは目標値、色のついているところは現実の変遷の数値です。飢餓という指標だけでなく、さまざまな栄養に関する世界的な2025・2030年の目標の達成は困難であると言われています。

飢餓の主要因として紛争があります。紛争は食料の生産やサプライチェーンに影響を与えて、そこに住んでいる人々の食料安全保障を脅かし、そういう状態がさらに紛争を悪化させるという悪循環が起こったりします。5年以上前に勤めていたシリアでは、FAOの内戦下での事業を見ていました。紛争前は、小麦は自給率100%、あるいはそれ以上で海外に輸出していた国が、紛争によりどんどん国内の生産ができなくなり、食料安全保障という意味でぜい弱な状態になっていくのを目の前で見ました。

また、もう一つの要因として気候変動、それによる極端な気候が挙げられます。たとえば干ばつや大型台風。そしてそれらの頻度と激しさがどんどん強化されてしまっている状況で、食料生産とそれに伴うさまざまな面で問題が出ています。

主要因の三つ目が先ほど触れた経済ショック・停滞です。2019から2020にかけてのコロナ感染拡大は、各国でまさに経済ショックのような影響を与えたといえます。

飢餓、栄養不良の解消に向けて進まなければいけないということで、さまざまな要因が挙げられるのですが、今年7月に出た報告書で重要視しているのは、貧困や不平等の問題が根本にあるということです。それがある限り飢餓、栄養不良の問題は容易に解決できません。報告書はそのような根本的な問題を考えなければならないと呼びかけています。

食料ロス・廃棄は大量の温室効果ガスを発生させる

本日のテーマは食料ロス・廃棄です。みなさん、ご存じかと思いますが、食料生産の約3分の1はロスまたは廃棄されて食べられていません。国連のシステムでは食料のロスと廃棄という形で、あえて二つを並べています。その理由というのが、ロス、喪失というのは生産の現場、畑や漁場、卸売りまでいくところで失われるもの。廃棄は小売りから最終的な消費者、あるいは外食産業などで廃棄される部分を指しています。3分の1は大雑把な数字ですが、最近出た数字でいえば、収穫から卸売りまで14%が損失されています。毎年そこで失われる食料の価格は4000億ドル分ぐらいです。また、小売り・外食産業・一般家庭で廃棄されるものは17%で、そのうち圧倒的に多いのが一般家庭の11%、外食5%、小売りが1%と続きます。

発展途上国ほど生産の現場で失われるものが多く、先進国は消費者の段階で廃棄するものが多いと言われています。その一つの理由として発展途上国の場合は、収穫後の取り扱いができていない。それからインフラですね、たとえばコールドチェーン、貯蔵施設などがちゃんとできていない。農園から市場に行く前に野菜や果実などの傷みやすいものが腐ってしまっています。

何度ももったいないという話をしましたが、単に食べ物を無駄にしたときにもったいないではなく、実は食べ物を生産するために多くの天然資源エネルギーが使われていて、まず1回目のもったいないがあります。土地や水が食料生産に使われ、温室効果ガスが発生しています。それが食料ロス・廃棄されると、廃棄と腐っていく段階で改めてまた温室効果ガスが出てきて、二重のもったいないところがでてきてしまいます。食料ロス・廃棄は温室効果ガスの大きな発生原因と言われていまして、統計によると全体の約10%が食料ロス・廃棄によるものです。国であったとすると排出量の大きな国の3番目に相当する大きな量が出ていることになっています。

飢餓の解決に向けてわたしたちができること

これらを受けて、食料ロス・廃棄だけでなく、どうやって飢餓をなくしていくか、ということに対して、社会的不平等に対処し、健康に良い食事を、手ごろな価格で、持続的、包摂的に、私たちの食料システムをより強じんで主要な原動力に変えていく必要があります。

9月25日に国連食料システムサミットがニューヨークで開催されました。そこでさまざまな問題が議論されましたが、特に、これだけたくさんの飢えている人々がいるなかで、大量の食料が無駄になっているひずみのある食料システムを変えなければならない、ということが非常に大きな声となり、食料を廃棄しない連盟というのができました。各国あるいはそれぞれに興味をもっているグループで、フォローアップをしていく、また食料システム全体をいかに持続可能にしていくかを考えていくという世界で一つの大きなコンセンサスができました。日本にいて何ができるのか、ということは言われますが、非常に重要なのが消費者の声です。特に消費者の方が消費している食料がどこからくるのか、どのようなバックグランドがあって、どのようなカーボンフットプリントを経て手元に届いているのかということを考えていく。そしてまた自分たちが欲しいものをもっと生産・流通の人に投げかける、ということをしていく必要があると思っています。

Q&A

Q: 特に輸入に依存する国に影響するというのは、日本も影響を受けますか? 10月に食料価格が上がりますが。
日比さん: 日本の国は明らかに輸入に依存しています。しかし、それ以上にもっと食料を海外に依存して打撃を受けやすい小国があります。昨年私は日本に戻ってきましたが、その前に住んでいた太平洋州のサモアは人口20万です。大洋州14ヵ国を見ていましたが、どこの国も大量に海外から食べ物輸入しています。国内生産が限られます。そういうところだと、より大きな影響を受けます。それに比べると日本は たしかに輸入には依存していますが、一方で多様化しています。パンもありご飯もあり、ストック(貯蔵)もあり少しは地産地消もされていて、いろんなところから入っています。海外からの影響について、日本において重要なのはリスク管理の概念です。
新型コロナの感染拡大が昨年の春ぐらいから始まったとき、どこの国も真っ先に考えたのはどうリスクを低下させるか、つまり一つのところに依存していると、そこがだめになったときの自分たちの打撃が非常に大きくなる。それを考慮してどうやって多様化するかが課題となります。たとえば野菜のように比較的早く育つものはそれを契機に国内生産を一機に増やした、というのは太平洋州でありました。ここで重要なのは、やはりリスク管理です。マクロのレベルで国を見ている立場の人の話になってきますが、どうやって自分の国の食料安全保障をリスクという視点で見て、英語で言う「ひとつのバスケットにすべて卵を入れない」形にしていくのかが問われます。そういう意味では地産地消は重要ですし、一つの国だけで食料をまかなえる国はおそらく世界では一つもありませんから、自国で自分たちの土地でローカルに生産するものと海外からの輸入するものとバランスをとることが、重要な政策課題になってくると思います。

プレゼンテーション後のコメント

他のプレゼンターのお話を聞いて非常に勇気づけられました。新しい素晴らしい取り組みをなさっていて大変うれしく思いました。食料システムを変革するというと、とても大変なことに聞こえ、実際大変なことではあります。ただ、環境問題から生物多様性、気候変動、世界の平和とかさまざまなトピックがあるなかで、食料ロスの部分は比較的我々みんな取り組みやすい分野であり、それによって大きなインパクトを与えることができるところです。みなさまとてもポジティブなコメントを出してくださっているのですが、ぜひともこれから我々一人ひとりができるところからはじめていただき、そして、もっともっと消費者の声を生産者や流通関係、食品産業の方に届けると形でいろいろと変革を続けていただければと思います。


2021年10月1日開催の「World Food Night 2021 with 横浜」イベントレポートはこちら

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